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改札

駅の改札は不思議である。
どこかへ向かう人を放流して、どこかから帰ってくる人を向かい入れる。
それぞれの人にはつながりはないけれど、まるでスイミーのようにひとつの生き物のように、まとまって動く。

それはまるで、街の玄関のように、そこに住む人々の往来を見守っている。

けれど、家の玄関とは違う。そこでは、他人が旅立つの様子や、お迎えをされている様子を見ることができる。

友人や親族にも見せないであろう顔を、赤の他人である僕たちは、改札では見せ合っていたりする。

恋人が階段から登ってきた姿をみとめた人の頬のほころび、はじめて1人で電車に乗るかのような不安の目をする幼児、朝練に向かう学生の気持ちを整えている険しい表情、朝まで飲んで気も確かではない会社員の赤点

どれもこれも、自分が誰かから受けた表情であり、自分が誰かへ送った表情である。こんな表情を見られると恥ずかしいことが多いけれど、改札では気を許してしまう。

吉本隆明的に云うならば、共同幻想から個人幻想や対幻想へと移行する瞬間に立ち会っている、とでもいうのかもしれない。

改札は表情の玄関だ。
今日も色んな人の喜怒哀楽を見守っている。

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